ポール親方の力作だ。
上の写真は、ダイニングからベランダに出る、下までのアルミサッシ窓に取り付けられた開閉扉式の網戸。
他に、台所のよろい戸式ガラス窓の所に取り付け、リビングの大きな窓、二つの寝室の窓にも作ってもらった。計5箇所だ。
それで、材料費と制作費、設置費合わせて300米ドル(23000円くらいかな。)をポール親方に払った。
彼の工作(!)道具一式は、5㎜角くらいの方眼メモ用紙、握るとこだけにしかプラスティックの外カバーが残っていない残り少ないインクの黒ボールペン、木切れに巻いた紙やすり、金槌、釘抜き、のこぎり、形ばかりの直角になった金属性定規(なんて言ったっけ?)。以上。
それに網戸の材料として、金属製の網、くぎ、薄い板、角材、そして扉式のところの蝶番と錠。以上。
シンプルなこと、この上なし!
くぎは大量に袋に残っていたが、用意された薄板と角材は見事に使いきってしまった。
これで、板に印を付けたり、請求書書いたり、カッコ良いサインもしていた。
ボールペンの先のほうしか、プラスティックカバーがない。
我が家は日本式の3階。リビング窓と2つの寝室窓のところに網戸を取り付けるとき、ひょい!っと窓を乗り越えた。ぎょっとして覗くと、下の階の窓の庇(ひさし)が50㎝ほど突き出ていてポール親方はそのわずかなスペースでトンカン取り付け工事を始めた。
「気をつけてー、でないと落ちるよー」
「Oui♪ moi♪ je ne tombe pas ~♪」わたしは落ちないよー♪・・・どこまでも陽気なポール親方だ。
いざ、というときはポール親方の腕をさっ!とつかまえるんだ、と我が心に言い聞かせた。
「ポール、ここに隙間があるよ、蚊が入ってくるじゃない。」
「Oui, les moustiques entrent dans la chambre ♪」蚊が入ってくるよー♪
木切れを適当にバキリ!と折って、穴を塞ぐ。大きい空間のときは木をのこぎりで切って横板を渡して釘で留めて空間を塞ぐ。なんでもござれ!定規で測る、なんてことは知りませーん。すべて目測だ。
ベランダに散らばった木屑や木粉は手で集めてゴミ箱へ。
集められなかったごみや、曲がった釘はポイポイ、下へ投げ捨てている。
「誰かが下を通ってて頭に当たったよ。」
「Oui, quelqu'un marche ♪」 誰かが下を歩いてるー♪
なんでも歌になるポール親方。
「ポール、網戸を取り付ける前に、庇のごみを取って。窓ガラス拭いて。」メイドもこの時とばかりにポール親方に頼んでいるが、いやな顔ひとつせずに Oui ♪ Oui♪
きちんとした仕事をしてくれる。
さあ、ポール親方の仕事もこれで終わりだ、というときに、アルミサッシの窓枠の上部に灰色の土でできた蜂の巣が何十cmも繋がってできているのを発見。明らかに空っぽの巣だけど、発見してしまったからには撤去するしかない。
「ポール、蜂の巣があそこに!」Oui ♪ Oui♪ はいよっ♪
見上げて、彼の頭の上にぽろぽろ蜂の巣の土を落としながらきれいに取ってくれた。
何度かの作業のたび、ほぼ正確な時間に現われて一生懸命仕事をした。ある日、わたしが今出かけるところだから帰ってきたら来てください、30分か40分後かに帰宅します、と言って出かけ、わたしが門番に帰宅したとポールに伝えて、と言い忘れてしまったときも、
「わたしは危うく昼寝をするところでしたよー」
と言いながら現われて作業を始めたこともあった。
ポール親方、ありがとう。仕事が終わるとさっさと玄関ドアを開けて帰ってゆく後姿に、
「仕事以外に庇を掃除してくれて、窓拭きをしてくれて、蜂の巣を取ってくれて。どうもありがとう。」
ポール親方にちょこっと余分にお駄賃を払った。
Merci . C'est gentil. Merci.
このときは歌わずに笑顔で挨拶した。
これがポール親方!目を閉じて写っているけれど、もっと生き生きした表情で筋肉モリモリの体格の背高の親方だ。
40歳なんですって。歳を取りすぎたね、って。
この親方の着ていたランニングがぶら下がっていた。
なんでこんなとこに薄汚れた親方のランニングがあるわけ!!?
なんと。その黄ばんだランニングの裾に、乱雑な見慣れた字で「S」と書かれていたのだった・・・。