2013年12月11日水曜日

突然の休日

12月9日朝、まだベッドにいるときに電話が鳴った。
6時半前だ。

アロ~・・・。

寝ぼけた頭で携帯電話を取ると、我が家の家政婦からだった。

今日、キンシャサは休日になったから、わたしはそちらに行きません!

それだけ言って、ぷつりと切れた。
コンゴの人は、ワン切り、さっと用件を言って即切り、を得意とする。電話代節約のためだ。

何がなんだかわからないまま、家政婦に今度はわたしから電話をする。
彼女が言うには、今日は有名な歌手が死んで葬儀の日なので、前日夜にテレビでキンシャサのトップが翌日は休日にする、と発表したのだそうだ。
かのじょの言い分が妥当なものかどうか、わたしには判断できない。
夫に代わってもらった。


ところが、夫はかのじょの休日の要求をすんなり受け入れて電話を切った。
キンシャサの公的機関が休みにする、と発表したのだったら仕方ないな。夫はそう言うのだった。


前日夜に公的機関が、突然、翌日を休日にする、と発表するなんて日本では絶対に考えられない措置だ。
しかも、有名なコンゴ人歌手の葬儀だから、という理由で。

意地悪く言ってしまうと、人の葬儀でもなんでも休日にして仕事を休みにしてしまうというコンゴ人の怠惰振りに呆れてしまう、というのがわたしの本音だったと思う。


かのじょが休みになったお蔭で、わたしはその日の友人たちとの外出を心置きなく楽しめたのだけど。
他の国から来ている友人たちも、口々にどうして有名歌手の葬儀で市の機関も銀行も会社も工場も学校も休みになるんだか、意味不明~!!!、と開いた口がふさがらない、といった面持ちだった。



その有名なコンゴの歌手とは、”Tabu Ley Rochereau”タブ・レイ・ロシェロという、いわゆるシンガーソングライターだった。

タブ・レイ・ロシェロ

かれは1940年コンゴ民主共和国のBandundu生まれ。1958年から歌手活動を始めている。
音楽ジャンルはアフリカン・ルンバ。
モブツ大統領時代には、米国、ベルギーに亡命し、反モブツの政党を立ち上げている。
モブツ体制崩壊後に祖国に戻り、歌手活動をしつつ政治活動も始め、2005年にはキンシャサの副知事(?副代表)になっている。
46歳の時点で3000曲以上の歌を作り、多数のディスクを売り上げている。
2013年11月30日、ブリュッセルの病院で死去。73歳。
(Wikipediaより)


9日に普段と変わりなく出勤してきた我が家の運転手に訊いてみた。
彼ってそんなに偉大な歌手だったの?

運転手が言うには、ロシェロはコンゴ国民誰もが知っている人気のある歌手だったのだそうだ。また、私の好きなコンゴ独立の歌、”Independance cha cha”も歌っていたと言うのだ。
そして、ロシェロは歌手であり政治家でもあったと言い、キンシャサの副知事をしていたとも説明した。
かれはずっとキンシャサで音楽活動をしていたが、数年前に脳血管障害で倒れて以来ベルギーの病院に入院していたのだそうだ。
かれの遺体がキンシャサに着いて、今日(12月9日)、国会議事堂でかれの葬儀とミサが行われるということも知っていた。

我が家の運転手に、たかだか有名歌手が亡くなったというだけで、突然キンシャサじゅうを休日にするとは、奇妙なことねえ、と言うと、かれは政府の仕事もしていましたから、と言うのだった。


さて。
そして今朝、12月10日。
普段通りに家政婦が我が家に9時に到着。
わたしも意地悪だから、かのじょに、たかがコンゴの一有名歌手が亡くなってかれの葬儀の日だからといって、突然、前夜にテレビで次の日は休日にします、と発表するなんてコンゴって変な国ねえ、と言ってみた。

政府が決めたのだから、それに従うだけでしょ。
学校だってどこだって、休みだったんだから。
いつも権利をはっきり主張してくるかのじょらしい言い方だった。

さらにわたしは、かれはそんなに偉大な歌手だったの?、と訊いてみる。ロシェロは、パリのオリンピア劇場でアフリカ人で或いはコンゴ人で初めてコンサートを開いた歌手なのだとも聞く。
 
まあ、かれは政治家でもあったから。
日本だって、偉大な政治家が亡くなったら、休日にして故人のためにいお祈りするでしょう?
と当たり前の顔で言う。

そりゃあ、功績のあった人の葬儀のときは、それぞれが故人のために祈るけど。
でも日本はそのために学校や仕事を突然休みにはしないわよ。

私の返答に、かのじょは、「薄情なんだねえ、あんたたちの国は。」と言わんばかりの薄ら笑い浮かべている。

逆に軽蔑されてしまっていることに憤りを感じてしまう。

あなたは、ロシェロのことが好きだった?、と質問を変えてみた。
すると、運転手とは違ってしかめ面をして、答えを渋った。

わたしは、ロシェロを好きじゃなかった。
人格的にもね、ということを付け加えた。
モロトーは大好きだったけどね、とも。
コンゴ人歌手、モロトーも今年亡くなっている。(毒を盛られたのが死因だという噂もある。)
かれもとても人気のある歌手で、追悼DVDがコンゴで発売されたくらいだ。
でも、かれの葬儀の日は休日にはならなかった。
かのじょは、ロシェロの回りには女性がいっぱい、子どももいっぱいいたと呆れた顔で言うのだった。(新聞"Parisien"によると、かれには68人もの子どもがいたのだそうだ。)


いろいろ聞いて調べてみたが、ロシェロは政府の要人だったということで、かれの葬儀の日を休日にしたのだろうなと思う。
それにしても、前日の夜にテレビで、「明日は休日です!」と突然発表するというのは、やっぱり奇妙に感じるのだった。

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