2016年11月14日月曜日

キンシャサ便りふたたび10 キンシャサの路線バス大健闘中

2013年7月31日付けのわたしのブログ、”ボノボの森から”で、キンシャサに路線バスが運行開始、という記事を載せた。

「キンシャサに路線バス走る」

2013年キンシャサに走り始めた頃のピカピカのTRANSCO路線バス(手前は乗り合いバン)

これは、路線バス、”TRANSCO”がキンシャサ幹線道路を走り始めて間もないころに撮った写真だ。


”政府によって発注された50台のバスがキンシャサに到着”の新聞記事 2013.1.23Observateurより

これは、ドイツのベンツ社のバス50台分の第一便が2013年1月21日にキンシャサに到着した、という2013年1月3日付けの新聞記事(キンシャサの日刊新聞”Observateur”)だ。
3月末にはさらに150台が到着予定で、コンゴ政府は2700万米ドルを投資したと書かれている。

前年の2012年にキンシャサで開催された仏語圏会議を目前に、キンシャサの乗り合いタクシー、乗り合いバンが3日間のストライキを起こし、キンシャサの通勤客の足が奪われ、大混乱を起こした。
確か、あまりに危険な走行をする(ドア無し、ガラス窓無し、ぶら下がり乗客で定員オーバーの無謀な走行!)乗り合いバンに対して禁止条例を出した(仏語圏の代表者が集まる中で交通マナーを守ろうという)政府に対してのストライキだったとわたしは記憶する。
当時、公営の交通網を持たなかった政府は、その時の交通大混乱に何の解決策も打てなかったことを反省し、公共交通機関を整備することを決断したのだと新聞記事には書かれていた。
コンゴの運送機関 ”Transports du Congo”から命名された、政府直営の”TRANSCO”。

さらには、同年8月には、キンシャサ市営のバス、”TRANSKIN”も運行を開始した。TRANSCO同様に大型のバスも、そして中型のバスもあった。こちらは中国製で60台で運行が開始されたと聞く。


あれから、3年以上の月日が流れて、現在、キンシャサの路線バス”TRANSCO”はどうなっているのか。
わたしは、今回のキンシャサ滞在で一番、気に留めて、期待(心配?)していたことが、実はこのTRANSCOバスのことだった。

果たして、路線バスTRANSCOがキンシャサの庶民の足としてどのくらい定着しているのだろう。
祈るような想いで、キンシャサに降り立った。

そして。
なんとびっくり!!!
TRANSCOバス、大奮闘で、しっかりと庶民の足となっていた!!!
バンザーイ!!!
しかも、側面に全面広告を載せて走行するTRANSCOバスも見かけて、進化していた。


2016年10月 改装された中央郵便局前を走行中の広告入りTRANSCO路線バス~6月30日通りで


2016年10月 全面広告の入ったTRANSCO路線バス(その先を走る青黄二色の車は乗り合いバン)~6月30日通りで

上の写真2枚は、今回キンシャサに来てから撮ったものだ。
キンシャサのメインストリート、6月30日通りを走るTRANSCO路線バスだ。
全面に広告を載せて走行するTRANSCO。メンテナンスもしっかり施されていると感じる。

バスのガラス窓のところに、2つのメッセージがフランス語とリンガラ語で書かれているのを発見した。
一つは、このバスに不満がありましたら、この電話番号にお知らせください、というもの。
もう一つは、バスの広告の申し込みはこの電話番号にどうぞ、というもの。
なるほど、広告費でも稼ごうというのは良いアイデアだ。
そして、走行中に何か不都合があったら知らせてほしい、という案内も、交通マナーを守ります、という意思表明だとわたしは受け取った。

2012年にキンシャサに来た当初は、ドアや窓の外れたおんぼろ乗り合いバンが走行していた。
普通は3列か4列しか取り付けられていない座席をさらに2列ほど増やして、満員どころか、バンにぶら下がる乗客もいて、定員オーバーもいいところ!車体が傾いて走行する危険な乗り合いバンが通りにあふれていた。
そんな乗り合いバンを人々は、”ESPRIT DE MORT”と自嘲するように言い合っていた。
直訳すると、死の霊。死と隣り合わせの乗り合いバン、死を覚悟して乗車する乗り合いバン、ということなのだろう。

さて。緑色の車体のキンシャサ市営バス”TRANSKIN”は、キンシャサ中心部から全く影をひそめて見かけなくなっていた。
代わりに(?)、なんと、”ESPRIT DE VIE”(命の精神、命の霊)と車体側面に書かれた、白地にやはりレインボーカラー使いの中型バスがあちこちで走行する姿を見かける。
命を乗せた乗り合いバン、命を大切にする乗り合いバンですよ、と、ちょっとユーモラスなネーミングに笑ってしまう。
以前の”ESPRIT DE MORT”に引っ掛けたことは言うまでもない。
この路線バスの話題を我が家の家政婦に向けると、
「おもしろいネーミングでしょ。わたしは金輪際、あのおそろしいESPRIT DE MORTには乗らないよ。」
と大きな体を揺すりながら笑う。



2012年 朝の通勤客でごった返す、舗装前のポワルー道路界隈の乗り合いバン

2013年 6月30日通りを走行中の乗り合いバン2台

上2枚の写真は、仏語圏会議後の乗り合いバンで、ずいぶんマナーは改善されている。以前は本当にドア無しで人間がぶら下がって走る乗り合いバンだった。
ドアや窓がちゃんと付いて走行する、見かけはスマートに見える乗り合いバン。だが、座席が増設されて定員オーバーで運行されている。
TRANSCOや、ESPRIT DE VIEといった小ざっぱりとした路線バスがしっかりと庶民の足として定着している影響なのだろう。ずいぶんと、乗り合いバンも乗り合いタクシーも見かけ上のマナーは改善されてきたなあと感じる。

下の二枚の写真は、走行中のESPRIT DE VIE路線バスだ。

2016年10月 キンシャサ6月30日通りを運行中の路線バス”ESPRIT DE VIE”

昼間も、夜も、庶民の足として活躍している。
そして、車体に、「もし、わたしに不都合な振る舞いがありましたら、この電話番号にお知らせください。」と書かれているのを発見した。
なんと涙ぐましい努力だろう、とうるうるしてしまった。


キンシャサ郊外へ向かう、夜7時頃の路線バス”ESPRIT DE VIE” 2016年10月キタンボマガザン辺り

このESPRIT DE VIE 路線バスはどこが運営しているのか、わたしはわからない。夫のプロジェクトの運転手は、キンシャサ市営バスだと言っているそうだ。もう少し情報を取らなければ。

運行を開始して3年以上が経つTRANSCO路線バスは、しっかりメンテナンスされているし、バス停もまあよく管理されていると思う。側面のプラスティック板(アクリル板?)が割れたり、シールが貼られたりはしているが、ベンチに腰掛けてバスを待つ人々の姿をよく見かける。

2016年10月 キンシャサ6月30日通りのTRANSCOバス停

朝、夕の乗降客の多い時間帯では、路線バス運行開始当初もそうだったように、、現在も市民はしっかりと列を作ってバス停で待っている!
キンシャサ中央駅前や中央銀行などの官庁建物横のTRANSCOバス発着起点と思われる大きなターミナルでは長蛇の列を作っているが、皆、文句も言わず、寡黙にそれぞれの行き先のバスを待ち続けているところがほほ笑ましい。
だって、かれらの運転マナーのひどさと言ったら!
我先にと車の割り込みは日常茶飯事だ!
ンジリ国際空港に向かう途中で、2車線道路のはずが、3車線にも4車線にも膨れ上がって、身動きが取れなくなって墓穴を掘るような最悪の渋滞に巻き込まれたこともあった!
そんな運転マナーの酷い状況を普通に見かけるキンシャサの中で、バス停で黙々ときれいに列を作ってバスを待つ姿は奇跡!とも思えるのだ。
心から感動してしまう。

先月初めだったか、キンシャサ郊外で、黄土色に塗られた中型の”TRANSKIN”バスを見かけた。キンシャサ市営のTRANSKINも、郊外の路線で運行が続行中だと知ったが、どのくらいの規模で運行されているかは分からない。

TRANSCOバスは、始点から終点までずっと乗り続けても500コンゴフラン。乗り換えるとまた500コンゴフランを新たに払うのだそうだ。
キンシャサのンジリ国際空港までの路線バス運行は聞かないが、キンシャサ中央駅から空港手前のマシナという庶民の町のバスターミナルまで、ポワルー道路とルブンバ通りを繋ぐ直通のTRANSCO路線が運行され、日本の技術で舗装されたポワルー道路には頻繁にTRANSCOバスが走行していると夫から聞いている。
一般市民の多く住む町への路線バスの運行はずいぶん広がっているようだ。

前回の滞在時にポワルー道路から見かけた、朝夕の通勤時間帯だけ運行する(超満員の)電車も、夫からの話によると、現在も運行されているそうだ。
ただ、乗客はずいぶん減っているとも聞く。TRANSCOバスのほうが便利だからだろうと夫は言う。

2012年 ポワルー道路から撮影した朝夕のみ運行の、乗客で満員の通勤電車


ただ、外国人(とひとくくりに表現したが、ここで商売をして生活をするインド、レバノン、シリア人たちは利用しているような?)がこういった公共交通機関を利用できるのか、ということになると、首をかしげる。
まず、キンシャサの町中を外国人は自由に闊歩できない現実がある。

それでも、この3年の間にキンシャサ中心部へ働きに出る人々の足としてしっかり定着している路線バス”TRANSCO”たちには、本当に感動する。
小規模会社や個人経営の乗り合いタクシーや乗り合いバンもずいぶんマナーを守って活躍するのを見受けて、まだまだ公共の路線バスの需要は満たされていないのだろうと感じる。

この国の東部では紛争が続き、国土が広大でキンシャサ政府の力が国全体に届いていないという現状が頭をかすめる。国道などの道路が整備されていなくて、移動手段は飛行機かコンゴ川の不定期の船便しかないという有様だ。

そんな国の首都であるキンシャサの公共交通機関は、これからどのように発展していくのだろう。

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